旧作レビュー:第2回・村川透『復讐は俺がやる』

『復讐は俺がやる』



<作品データ>
原題:Distant Justice
制作年:1992年
制作国:日本・アメリカ
アスペクト比:ビスタ
カラー・白黒:カラー


<スタッフ>
監督:村川透
脚本:田部俊之
音楽:ポール・ギルマン
撮影:フィル・パーメット


<キャスト>
菅原文太
エリック・ルーツ
野際陽子
デビッド・キャラダイン
ジョージ・ケネディ


<総評>
昨年の11月28日。その数週間前に入ってきた高倉健の訃報に続き、またしても日本映画界に衝撃を与える出来事が起きた。
高倉健と同じ、東映映画のスター菅原文太の訃報であった。
おそらく多くのファンは、彼のフィルモグラフィーをチェックしたであろう。そこで自分が一体彼の映画を何本観ているのか、そして何本の映画で彼の姿を観ることができるのか、探した人は少なくないはずだ。
かくいう筆者もまた、その一人であり、例によって『仁義なき戦い』シリーズの素晴らしさや、数多くの傑作任侠映画について、改めて語り合う機会を得たことは非常に忘れがたい。
しかしながら、そのフィルモグラフィーに妙に気になる作品を見つけ、それについて調べてみればみるほど、惹かれてしまう。
主演・菅原文太、共演者に俳優一家の出であるデヴィッド・キャラダインと、オスカー俳優のジョージ・ケネディというなかなか興味深い顔ぶれが揃ったその映画の存在を、これまで知らなかったからである。

その『復讐は俺がやる』というタイトルの映画は、東映Vシネマがアメリカ資本で90年代に制作した「東映Vアメリカ」の第1弾作品であり、その制作費は5億円。今ではほとんどのレンタルショップで入手することが不可能な状態になっているという。
しかも吹替版には大平透や羽佐間道夫、山寺宏一、大塚明夫といった一線級が顔を揃え、菅原文太本人の声を菅原文太が吹替ていると聞いてしまったら、これはもう吹替版で観るしかない。晩年はアニメ映画の声優も務めたかつての広能昌三が、英語を喋っている自分の姿に日本語で声を当てている姿を想像してしまえば、この上ない娯楽感が一気に漂うものだ。

冒頭シーンで、広大なアメリカの路上を、男が二人乗った車が走る。彼らは途中で強盗に入り、女を連れ去ろうとするが、たまたま訪れた中年男性を射殺してしまい、慌てて逃げ出す。
一方で、菅原文太演じる日本の刑事の男は、妻と娘と三人でアメリカ旅行中。たまたま路上で強盗の男たちと遭遇し、嫌な予感を感じる菅原であったが、案の定車を奪われてしまうのである。

この一連のオープニングシークエンスが、まったくその後の映画の展開に機能しないという点が、なんとも憎らしい。単に観客に「アメリカは怖いところ」であるということを言わんばかりな展開の安易さと、その後に待ち受ける野際陽子と菅原さくらが扮する母娘の観光シーンなど、とても白々しさを残しているものの、それもまた90年代前半の、まだバブルが抜け切れていない日本人の無知さを物語っていて滑稽である。

その観光していた母娘が、偶然にも麻薬取引現場の目の前で写真を撮ってしまうことから物語が動きだす。
菅原演じる刑事は、友人である地元の警察署長ジョージ・ケネディのもとを訪れていて、その間に妻が殺され、娘が拉致されたことを知らされ、静止するケネディを無視して娘を取り返すために暴走を始める。

菅原文太=警官というプロットではもう頭の中に『県警対組織暴力』が根付いてしまうことは致し方がないが、もしかしたら同じようなプロットで完全に日本を舞台にした映画があってもなんら不思議ではない、極めてシンプルな筋書きでありながら、とてもVシネマとは思えないようなクオリティの高さで魅了する。何だこの映画は。

キャメラを務めたフィル・パーメットは、現在もアメリカのB級アクション映画でその名前を見る撮影監督だ。代表作を問われても、『フォー・ルームス』のオムニバス一編や『イン・ザ・スープ』といったアレクサンダー・ロックウェルの作品のイメージがかろうじてあるだけで、特別優れたキャメラワークを見せるわけでもない。それでも、冒頭の路上のシーンからボストンの街へと進んで行くところや、ダイナーを飛び出した菅原文太が、地元のワルが集まる娯楽場にエリック・ルーツを潜入させるシーンなど、決して安っぽく見せない危なげのないカメラを見せる。
編集自体も、テンポが途絶えることなく、最後まで充分なくらい見せつけてくるアクションシーンの連続に、飽きを感じることもほとんどなく、むしろ90分足らずの映画なのに途中で休憩を欲してしまうほどの濃密さであった。

悪くない、むしろもっとこの東映Vアメリカのシリーズを見たくなる最たる所以は、オープニングのクレジットで英語で出される「BUNTA SUGAWARA」の文字と、「STARRING  YOKO NOGIWA」というクレジットの出現による言葉にできない高揚感に他ならない。




※ちなみにポスター画像がほとんどなかったため、アメリカ版のVHSのジャケット画像を発見したのでそれを引用させてもらう。これを見ると、菅原文太の映画ではなく、当時すっかり落ち目だったジョージ・ケネディが主演したアクション映画のような出で立ちであって少々勿体ない気もする。

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