【新作レビュー4月号】ジェームズ・ワン『ワイルド・スピード SKY MISSION』



『ワイルド・スピード SKY MISSION』

<作品データ>
2015年/アメリカ/138分/シネスコ

監督:ジェームズ・ワン
出演:ポール・ウォーカー、ヴィン・ディーゼル、ミシェル・ロドリゲス、ジェイソン・ステイサム、ドウェイン・ジョンソン、カート・ラッセル

公式サイト



<感想>

今から14年前、2001年の秋のことだった。
東京日比谷の映画街にあった老舗劇場・日比谷映画で一本の映画が封切られた。その映画『ワイルド・スピード』は、当時売り出し中だった若手俳優ポール・ウォーカーを主演に迎え、まだほとんど無名だったヴィン・ディーゼルというアクション俳優を世に放った、ただそれだけの作品だった。

日本ではあいにく二週間後の祝日に超大作が拡大公開するせいもあって、日比谷映画では二週間で上映が終了すると、隣の日比谷みゆき座で辛うじて一週間だけムーブオーバーされた。
その半年ほど前に同じ監督・主演コンビの『ザ・スカルズ』がひっそりと公開されていたせいもあって、所詮は興行つなぎのアクション映画に過ぎないと、思っていた。そう思っていなかった人でさえ、それから14年経った今、こんなにも大きな映画になっているだなんて予想できなかったであろう。

レンタルソフトの売り上げで着々と成績を伸ばし、低予算のカーアクション映画が未公開で日本に上陸しては、何度「ワイルド〜」という邦題を付けられてこの映画の二番煎じを演じたことか。
そしてシリーズ化され、一作ごとに世界的な興行収入を伸ばし続けてきたこの映画に、大きな節目が訪れたのは7作目の撮影中の2013年の11月のことだった。
主演のポール・ウォーカーが不慮の事故により、40歳の若さでこの世を去ったのだ。
ファンはもちろんのこと、この突然の訃報は、世界中の映画ファンに衝撃を与えたことは間違いない。それと同時に、追加撮影が控えていたシリーズ最新作の存続が危ぶまれたことは言うまでもない。
しかしながら、制作陣は10年以上共にシリーズを作り上げてきた家族の死を決して無駄にはしなかったのだ。制作費を増額し、ポールの弟であるカレブ・ウォーカーとコディ・ウォーカーによるボディダブルを選択し、ポールが演じるブライアン・オコナーを生かし続けたのである。

その結果完成にこぎつけた『ワイルド・スピード SKY MISSION』はどうなったか。
全米公開初週末でシリーズ最高の成績を叩き出し、二週目には2億5000万ドルを突破。世界興収もたった10日足らずで8億ドルを突破し、90年以上に渡るユニバーサルピクチャーズの興行記録を更新する勢いで加速している。
14年前、スマッシュヒットを飛ばし年間で20本しかなかった1億ドル突破作品の1本になった『ワイルド・スピード』は、〝20本のうちの1本〟に過ぎなかったが、夏以降に超大作が連発される2015年において、この7作目は〝2015年を代表する1本〟になったのである。


さて、肝心の内容のほうはどうだろうか。
冒頭から、前作『ワイルド・スピード EURO MISSION』で登場したアクションスター、ジェイソン・ステイサムが演じる男による過激な復讐劇の様相を呈し、それとは対照的に主人公たちの平穏な暮らしが描かれるのである。
完全に、シリーズを追っていない者は人物設定を始め、彼らの間に渦巻く数々のドラマを理解することはできないであろう。最近の前後編ものの映画のように、これまでのダイジェストなどを有り難く見せてくれるはずもなく、さもこのシリーズを〝観ていて当然〟かのように、一見さんを置いていく圧倒的な風格を見せる。
しかし、そんな相関図や粗筋など気にする必要もない。一目で誰が敵で誰が仲間か判る明快なプロット、それを踏まえた上でこの映画の中で始まりこの映画の中で終わる一連の筋書きは極めて親切であり、そしてたとえ話についていけなくても、次から次へと繰り返されるアクションシーンの連続は思わず声をあげて歓声を送りたいほどに痛快なものである。
ポール・ウォーカー、ヴィン・ディーゼルはもちろんのこと、ブロックバスター映画常連のミシェル・ロドリゲス、そして出演作にハズレがない男ドウェイン・ジョンソン、大御所カート・ラッセルら全員が、スクリーン上で満遍なく存在感を主張しあい、それぞれに見せ場を用意しておきながら、人間そっちのけで車をひたすらフィーチャーする演出。とにかく痛快な映像の連続で、優れたポップコーンムービーである。

このシリーズでは初めてメガフォンを執ったジェームズ・ワンといえば、やはり2000年代に一大ブームを巻き起こした『SAW』シリーズを始め、ゴアホラーの作家というイメージがある。もっとも、フィルモグラフィーのほとんどがそうであるから、仕方がないのであるが、彼がアクション映画を撮るのは『狼の死刑宣告』以来のことであろうか。
これまでロブ・コーエン、ジョン・シングルトンといった90年代アクション映画を支えてきた作家がシリーズを大きくし、ジャスティン・リンという新鋭がそれを維持し続けた。もっとも、ジェームズ・ワンらしい映画ではないにしろ、彼はこれまでの3人の作家と、シリーズを作り上げてきたキャストに対する大いなる敬意を持ってこの仕事を成し遂げたことが容易に見て取れる。
当然のように残虐描写は一切なし。それでいて、アクションシーンもこれまでのシリーズと引けを取らないほどダイナミックであり、挑戦的な映像で、我々の感性を刺激し続ける。
複数の監督によって作り出されるシリーズでは、何よりも最終作の監督が重要であり、それまでいくら散らばってしまったとしても、それをまとめ上げる手腕がなくてはシリーズは完結することができない。良い例が、『ハリー・ポッター』シリーズのデヴィッド・イェーツであり、悪い例が『トワイライト』のビル・コンドンであるが、ジェームズ・ワンはこの映画に置いて、持ち前の職人気質を遺憾なく発揮したであろう。

クライマックス、車を並べた二人の会話は、これまでのアクションシーンに頼って吹き飛ばし続けていた記憶を、観客に再び呼び起こさせるものであるが故、突然に涙が溢れてくる。一時代を築き上げたシリーズ映画にとって、これほどまでに完璧なエンディングは存在しないであろう。
この映画を最後まで作り切った、全てのスタッフとキャストへ最大の賛辞を送りたい。そして、ポール・ウォーカーという役者がいたことを、我々は決して忘れることはないだろう。


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