【新作レビュー1月号】ジャン=リュック・ゴダール『さらば、愛の言葉よ』



『さらば、愛の言葉よ』


<作品データ>
2014/フランス/69分/HD/R15+

監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:エロイーズ・ゴデ、カミル・アブデリ

公式ホームページ


<感想>
映画を撮るにあたって、制作者は多くの選択を強いられる。
カラーで撮るかモノクロで撮るか。画面はビスタにするかシネスコにするか、はたまたスタンダードにするか。映画が多様化している現代においては、フィルムで撮るかデジタルで撮るかの選択以外は最早コストに影響されるものでないし、それどころか1:1の画面を生み出す作家まで出てきたのだから、これから尚のこと映画のパッケージは多様化するであろう。
そんな1:1画面を生み出したカナダの25歳の若手作家と並んで、カンヌ国際映画祭で審査員賞に輝いたジャン=リュック・ゴダールは、1930年生まれだから、今年で85歳になる。彼が新作『さらば、愛の言葉よ』で選んだ選択肢は、「3Dで撮る」という突拍子も無いものであった。

今ではすっかり主流になり、リーズナブルに作ることも可能である3D映画。過去の名作の3Dコンバージョンも増加してきているが(余談ではあるが、ジョージ・スティーブンスの『シェーン』がブルーレイ3Dでリリースされていることに最近驚愕した)、果たして誰がこのジャン=リュック・ゴダールという男がそれを用いると考えたことだろう。

ヌーヴェルヴァーグの旗手として短長編、劇映画・ドキュメンタリー映画を問わず数多の作品を創り出してきた彼にとって、これがひとつの転機になるか、はたまた最後の悪あがきになるか。そう思ってこの1時間少々のフィルムを目撃すると、どちらでもないということがよく判る。徹頭徹尾、ヌーヴェルヴァーグ崩壊から政治色を強め、そして実験色を高めていった彼の通常の映画と何ら変わりのないものであったからかえって驚きを隠しきれない。

全体像はあってないような物語と、映像とテキストのコラージュ。映像は水面や子供や犬といった、予測不能な動体を3Dで捕らえられたときにどう見えるのかの実験に他ならない。あくまでも3Dという娯楽専用パッケージに納められた内側は、通常のアート映画であって、もっとも他のアート映画と言われるものと比べてみても、高尚さを気取った感じがしないのが清々しくも思える。

3D映画を好む人なら一見の価値はあるといえるだろう。「革新的」などという革新的でない言葉でこの作品を手放しに褒め称えることはできないけれども、素晴らしいショットは健在である。
予告でも使われる、金網越しのショットが二度使われたり、走る子供の先に続いている並木の奥行き。ゴダールが3Dを撮っても娯楽映画にはならないが、ゴダールにとって3Dは紛れもなく娯楽であると同時に、映画が好きなんだな、という他愛もない印象を受ける。


そういえば、この作品の前にゴダールとグリナーウェイら何人かで撮ったオムニバス映画があって、それも3Dだったことを思い出した。今後も多くの好奇心旺盛な作家が3Dや4Kといった最新技術を自身の表現の手段に取り入れていくことは必至であって、それは間違いなく彼らにとってひとつの挑戦であることはいうまでもない。ゴダール自身もまた、何か変わったことをしてくれるのではないかと期待が膨らむ。


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