『インターステラー』
（2014年／アメリカ）
監督：クリストファー・ノーラン
出演：マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャスティン、マイケル・ケイン、エレン・バーステイン
感想：
クリストファー・ノーランの映画というと、やはり『ダークナイト』３部作の印象が強い。
ハリウッドで成功するイギリス人監督というと、古くはヒッチコックに始まり、リドリー・スコットや、ポール・W・S・アンダーソンなど綺麗にアメリカ色に染まった作風を出せる監督ばかりであって、もちろんノーランもその一人である事は間違いない。
しばらくパートナーを組んできた撮影監督のウォーリー・フィスターが、自身の稚拙な初監督作のために今回は退き、ヨーロッパの俊英ホイテ・ヴァン・ホイテマがその代わりを務めると知った時、過ぎった不安は、アメリカ的なルックを維持できるかどうかということだけであった。
しかし、169分に渡る壮大な物語の、開始わずか数分で、その不安はすべて払拭される。
それどころか、フィルム至上主義者であるノーランによる、宇宙空間の映像は、80年代ごろのスペースSFを思い出させる至福の映像となっている。
ましてや、マシュー・マコノヒー演じる主人公の名前が、『ライトスタッフ』のデニス・クエイドと同じ“クーパー”であるからなおさらである。
率直に言えば、面白い映画であることは間違いない。
ただ、それ以上の映画らしいサプライズが欠けているのは、ノーランの生真面目すぎる演出のせいなのであろうか。
キップ・ソーンの理論を基にしたSFドラマは、宇宙物理学的な科学考証はほぼ完璧であり、宇宙空間でのシーンで突如として訪れる静寂は実に見事であった。それでも、やはり堅くなりすぎている感は否めず、『インセプション』のように科学的考証が曖昧でありながらもファンタジーとして貫いた方がより娯楽映画になりえたのではないであろうか。芸術映画にする気も、娯楽映画にする気も感じないので、何を目指しているのかが不明瞭である。
もっとも、科学考証が忠実であるゆえ、数十年後も語り継がれるSF映画に仕上がっていることは疑う余地もない。
昨年アルフォンソ・キュアロンが手がけた『ゼロ・グラビティ』のようなホラー的な宇宙の姿ではなく、あくまでも登場人物たちが宇宙に対する夢を持ち続けているあたりは、スペースSFらしくて好印象ではあるが、娯楽性と映画的なサプライズではどうしたって劣るものがある。
前半の畑の真ん中に立つ主人公たちの家、近未来設定であるにもかかわらず、それをありがちなヴィジュアルエフェクトでごまかさず、現代の田舎町のような退廃的な一面だけを切り取るあたりは、アンドレイ・タルコフスキーを意識していることが容易にわかる。ノーラン自身も『惑星ソラリス』と『鏡』を参考にしたと語っている。
その一方で終盤はスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』よろしく、難解な筋書きをより難解な着地点へと吹き飛ばし、観客を置き去りにする。少なくとも、まだこの時点では『2001年宇宙の旅』を超える作品になっていないことが、残念でならない。
以前ノーラン自身がベスト10に選んでいた、ゲイリー・ネルソンの『ブラックホール』もまた、この映画を予習しておくために必要な作品であろう。
前述した通り、フィルムの質感での宇宙空間のシーンの数々には心を打たれるものがあったが、一方で、人物を撮ることに長けたホイテマのキャメラでは、映像の躍動感が不足している。
人物が映らないカットを味わいたいシーンであっても、やたらと人物にフォーカスが当てられすぎているのは欠点であろう。
動く物体の側面から、それをなめるようにして遠ざかっていったり近づいていったりする背景を撮るショットが何度も登場するが、そこにあまり高揚感は無い。
前半で主人公が子供達と車に乗りながら、空を飛行する物体を追うシーンが、この映画で唯一の映画らしい高まりがあるシーンではなかろうか。
役者陣に関しては、なかなか絶妙な配役をされていて文句のつけようがない。中でも、主人公の娘を演じる三人の女優、マッケンジー・フォイ、ジェシカ・チャスティン、エレン・バーステインは、物語の核心をさらう重要な役柄であるゆえ、どれも素晴らしい演技であったといえよう。
エレン・バーステインが、マシュー・マコノヒーの娘役というだけで、何だかとても楽しい映画に思えてくるから不思議なものだ。
もっとも、今年のアカデミー賞レースに乗る上では、演技部門では少々厳しい戦いを強いられるであろう。アメリカ配給であるパラマウントに他の有力作品がないので、作品賞への候補入りはおそらく可能性大である。撮影賞、作曲賞、編集賞と技術部門は安泰ではあるだろうが、ノーラン自身の悲願の監督賞候補は、まだ微妙なところであろう。
11月22日より全国ロードショー
→公式サイト
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