【第86回オスカー受賞予想】第5回:美術賞&衣装デザイン賞&メイクアップ/ヘアスタイリング賞

第5回は、これまた特殊な映画が顔を並べる美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞です。


●美術賞

◎『ゼロ・グラビティ』
『華麗なるギャツビー』
『それでも夜は明ける』
『アメリカン・ハッスル』
『her 世界でひとつの彼女』


比較的同じ人が毎年受賞する傾向のあるこの部門ですが、今年はかなり強力なメンバーが集まっています。5枠の中に、作品賞最有力の3強を含め、作品賞候補が4本。残りの1本はお馴染みのキャサリン・マーティンが手がける『華麗なるギャツビー』ですから、かなり面白い様相です。

前哨戦で最も重要視されているのが、アメリカ美術監督組合賞。
この賞はコンテンポラリー(現代)、ピリオド(過去)、ファンタジー(空想)の3つのセクションに分かれており、今年は

コンテンポラリー…『her 世界でひとつの彼女』
ピリオド……『華麗なるギャツビー』
ファンタジー……『ゼロ・グラビティ』
と、各部門の受賞作がきちんとノミネートされています。ちなみに、残りの2本もピリオドのセクションに候補入りをしていました。

さて、きちんとこの組合賞とオスカー本番の兼ね合いを見てみましょう。

96年からスタートしている組合賞。オスカーの受賞作はすべて候補に挙がっております。
以下の表はオスカー美術賞受賞作の美術監督組合賞の結果です。

(最初はセクション分けがなかったのです)
96『イングリッシュ・ペイシェント』……受賞
97『タイタニック』……受賞
98『恋に落ちたシェイクスピア』……ノミネート
99『スリーピーホロウ』……受賞

(2000年からはコンテンポラリーとファンタジー&ピリオド部門に2分されます)
00『グリーン・デスティニー』……ファンタジー&ピリオド部門ノミネート
01『ムーラン・ルージュ』……ファンタジー&ピリオド部門受賞
02『シカゴ』……ファンタジー&ピリオド部門ノミネート
03『ロード・オブ・ザ・リング王の帰還』……ファンタジー&ピリオド部門受賞
04『アビエイター』……ファンタジー&ピリオド部門ノミネート
05『SAYURI』……ファンタジー&ピリオド部門受賞

(2006年以降、現行の3セクションに分けられます)
06『パンズ・ラビリンス』……ファンタジー部門受賞
07『スウィーニー・トッド』……ピリオド部門ノミネート
08『ベンジャミン・バトン数奇な人生』……ピリオド部門受賞
09『アバター』……ファンタジー部門受賞
10『アリス・イン・ワンダーランド』……ファンタジー部門ノミネート
11『ヒューゴの不思議な発明』……ピリオド部門受賞
12『リンカーン』……ピリオド部門ノミネート


お気付きいただいただろうか?
まず、「コンテンポラリー」部門は全く以て相手にされません。アカデミー賞で選ばれるのはピリオドかファンタジーなのです。

そして近年、ピリオドのノミネート→受賞、ファンタジーの受賞→ノミネート、ピリオドの受賞→ノミネートと、規則性を持って並んでいるのです。
過去のデータの規則性を考えると、

組合賞ノミネート止まりの作品が受賞した翌年は、必ず組合賞受賞作品が獲る

つまり『華麗なるギャツビー』VS『ゼロ・グラビティ』の構図が確定するのです。

作品賞に候補入りしていない『華麗なるギャツビー』と、美術賞と相性のいい衣装デザイン賞に候補入りしていない『ゼロ・グラビティ』。
美術賞はかつてはカラー作品とモノクロ作品に分けられていましたが、一元化されたのは1967年(第40回)からなのですが、それから46回の間に、

衣装デザイン賞候補に挙がっていない美術賞受賞作は9本。
一方で作品賞候補に挙がっていない美術賞受賞作は11本。

これはどっちもどっちだ。
ピリオドが2回、ファンタジーが2回、ピリオドが2回と続いてるから今回はファンタジーだと考えたら、『ゼロ・グラビティ』になるか。



●衣装デザイン賞

◎『華麗なるギャツビー』
『アメリカン・ハッスル』
『それでも夜は明ける』
『The Invisible Woman』
『グランド・マスター』


こちらも恒例の方々で埋められる部門。
なのでほかの賞では一切絡んでいない『The Invisible Woman』のような作品も候補入りするわけです。

過去の受賞作を見ると、錚々たるコスプレ映画が顔を並べていて、『アビエイター』ぐらいがちょっとコスプレ映画じゃないな、というくらいで、それ以外は本当にコスプレ映画なのです。

最重要のアメリカ衣装デザイナー組合賞は週明けに発表されます。
なので、今後少し変動があるかもしれませんが、
過去のオスカー受賞作は、2002年以降すべて組合賞に候補入りしていることを考えると、必然的に『華麗なるギャツビー』『アメリカン・ハッスル』『それでも夜は明ける』の3本に絞られるわけです。

『華麗なるギャツビー』の衣装は、美術と同じキャサリン・マーティン。彼女は衣装デザイン賞は3度目の候補で、『ムーラン・ルージュ』で受賞しています。

『アメリカン・ハッスル』のマイケル・ウィルキンソンは初ノミネート。

『それでも夜は明ける』のパトリシア・ノリスはこれが6度目の候補で、未だ受賞せず。


衣装デザイン賞受賞作で作品賞候補は24本。ただし、それもカラーとモノクロの分類が終わった第40回以降の45年間でのトータルであって、ここ10年間では3本。むしろ8年間では1本しか無いのだから、非常に難しい所。
やはり純然たるコスプレ映画である『華麗なるギャツビー』にあげるべきなのではないだろうか。



●メイクアップ&ヘアスタイリング賞

◎『ダラス・バイヤーズクラブ』
『jackass クソジジイのアメリカ横断チン道中』
『ローン・レンジャー』

今年もっとも難解というか、おかしなメンバーが揃ったこの部門。何故アカデミー賞にジャッカスが来るのか、という疑問が一部のアカデミー賞ファンから挙がったほどの大波乱の候補。

まず、ほかの多くの映画賞であまりメイクアップを称える賞が無いことを前提とした上で、まずリック・ベイカーの名前が候補リストにいるかいないかを確認しましょう。
今年はいないです。

それでは、重要前哨戦でありながら、今年やっと復活を遂げた、アメリカメイキャップアーティスト&ヘアスタイリスト組合賞の結果と照らし合わせて見ましょう。

『ダラス・バイヤーズクラブ』→メイキャップ賞(ピリオド)受賞
『jackass』→特別メイキャップ効果賞受賞
『ローン・レンジャー』→メイキャップ賞(ピリオド)ノミネート、ヘアスタイリング賞(ピリオド)ノミネート

ほぼ対等な状態で余計に困惑します。

まず、
・リック・ベイカーが手がけなければラジー賞クラスのトンデモ作品は受賞しない
・そっくりさんメイクなど、劇的な変化を見せれば強い
・昨年からヘアスタイリング賞が加えられたが、あまり目立って機能している気がしない

という前提から考えても考えなくても、とりあえずラジー賞候補の『ローン・レンジャー』はまず外しましょう。
『jackass』がラジー賞に挙がらなかったのは不思議だが、映画として認められていないのでは……?

怖いのはこの「特別メイキャップ効果賞」というもの。
組合賞が復活以前の03年まで、オスカーに輝いた作品はこの賞を受賞するか、そもそも組合賞に候補入りもされていないかの二択だった。ということは……。

なんて考えるまでもなく。『ダラス・バイヤーズクラブ』でいいでしょう。さすがに『jackass』に投票する人が多いとは思えない。



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