【予想】アカデミー賞作品賞は三つ巴の大混戦へ。

作品賞候補作9本の中から頂点に輝く映画は何か、それをあらゆるアカデミー賞ジンクスから割り出してみようと思います。


①『アメリカン・ハッスル』の行方は……

昨日発表された、アメリカ俳優組合賞。もちろん、俳優各賞を占う上で非常に重要なようなのですが、この中の部門にアンサンブル演技賞(キャスト賞)があります。
これは95年に開始された賞なのですが、過去18回で9作品がアンサンブル演技賞を受賞し、アカデミー作品賞に輝いています


2012『アルゴ』
2010『英国王のスピーチ』
2008『スラムドッグ$ミリオネア』

2007『ノーカントリー』
2005『クラッシュ』
2003『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』

2002『シカゴ』
1999『アメリカン・ビューティー』
1998『恋に落ちたシェイクスピア』


間に改行を入れたのは、この賞からアカデミー賞を占おうとするためです。
近10年で6作品が受賞しているわけなのですが、5年刻みで1年置きの受賞となっているわけです。
まあ近5年だけで見たら○→×→○→×→○なので、今年は×の番ですが。

また、2009年以降はアカデミー賞の作品賞の枠が増えたこともあって、このアンサンブル演技賞候補5作品(2004年は6作品でしたが)のうち、作品賞候補になった作品の占める割合が急上昇。
2010年は5本全てが作品賞候補にあがり、2008年以降のそれ以外の年は4本が作品賞候補になっています。

今年のアンサンブル演技賞の受賞作は『アメリカン・ハッスル』
候補作は『それでも夜は明ける』『ダラス・バイヤーズクラブ』『8月の家族たち』『大統領の執事の涙』なので、
アカデミー作品賞にノミネートされたのは3本。
過去に6度ありますが、そのうち半数の3本が作品賞を受賞。

可能性は何にせよ50%。




②『それでも夜は明ける』vs『ゼロ・グラビティ』

つづいてアメリカ製作者組合賞。プロデューサーギルドの受賞作は、ほぼ作品賞に直結するといわれています。

2012『アルゴ』
2011『アーティスト』
2010『英国王のスピーチ』
2009『ハート・ロッカー』
2008『スラムドッグ$ミリオネア』
2007『ノーカントリー』
……とまあ、近6年は作品賞受賞作が獲っていますね。過去24回で製作者組合賞を受賞しながら作品賞を逃したのは7本。
『リトル・ミス・サンシャイン』『ブロークバックマウンテン』『アビエイター』『ムーラン・ルージュ』『プライベート・ライアン』『アポロ13』『クライング・ゲーム』

ところが今年は『それでも夜は明ける』『ゼロ・グラビティ』の2強がタイ受賞という史上初の事態。
話が見えなくなってきました。



③三つ巴のまま本番へ。

『ゼロ・グラビティ』『それでも夜は明ける』『アメリカン・ハッスル』の3本のうちどれかが作品賞を獲ることは、おそらく間違いはないでしょう。
それぞれの作品を比べてみましょう。


『アメリカン・ハッスル』は昨年の『世界にひとつにプレイブック』につづいて、作品・監督・演技4部門と脚本or脚色の完全ノミネートを達成した13本目の作品
そのうち、作品賞を獲れたのはわずかに2本


(以下が完全ノミネート達成作。赤字が作品賞受賞作)
2012『世界にひとつのプレイブック』
1981『レッズ』
1978『帰郷』
1976『ネットワーク』
1967『招かれざる客』
  『俺たちに明日はない』
1966『バージニア・ウルフなんか怖くない』
1953『地上より永遠に』
1951『欲望という名の電車』
1950『サンセット大通り』
1948『ジョニー・ベリンダ』
1942『ミニヴァー夫人』


なんでこんなに評価される作品が、作品賞を獲れないのか。
その理由は簡単で、
まず作品賞を獲るための重要な要素は監督賞と脚本賞(or脚色賞)
演技部門も重要だが、その2つを活かすのにはそれよりも重要な部門があるわけです。


これは『アメリカン・ハッスル』危ういか。。。



完全候補作が作品賞を取り逃がした年に頂点に輝いた作品を比べてみたところ、
1948『ハムレット』
1950『イヴの総て』
1951『巴里のアメリカ人』
1966『わが命つきるとも』
1981『炎のランナー』
この5作品に共通するのは衣装デザイン賞受賞。

見ての通り、『ハムレット』以外はカラー映画。『ハムレット』と『炎のランナー』を除くとアメリカ映画です。
カラー映画をもっとも明確に表したものはやはり衣装。当時はその衣装が重要視された時代だということです。同様に、イギリスのシェイクスピア文化を顕著に示していたことも伺えます。


一方で、
1967『夜の大捜査線』
1976『ロッキー』
1978『ディア・ハンター』
2012『アルゴ』
この4作品に共通するのは編集賞受賞。

完全にアメリカンニューシネマの時代に移行していくと、映画はカラーでも白黒でも関係なく、その構成や見せ方に重点が置かれて、「映画」が確立していきます。
第8回から創設された編集賞は、過去78回のうち、作品賞との直結は33回。

作品賞受賞作が編集賞にあがらなかったのは以下の9本のみ。

『或る夜の出来事』
『ゾラの生涯』
『ハムレット』
『マーティ』
『トム・ジョーンズの華麗な冒険』
『わが命つきるとも』
『ゴッドファーザーPart2』
『アニー・ホール』
『普通の人々』

今年の編集賞候補作は、作品賞にも候補入りしている作品で形成されています。

『アメリカン・ハッスル』は編集賞を獲れるのか?




今年の編集賞最有力作品と噂されているのは『ゼロ・グラビティ』

(ほかのノミネート作は『キャプテン・フィリップス』『それでも夜は明ける』『アメリカン・ハッスル』『ダラス・バイヤーズクラブ』)

ところが、『ゼロ・グラビティ』が編集賞を獲ったところで、作品賞安泰というわけにはいきません。

脚本賞にノミネートされなかった!!!!!!

脚本賞(もしくは脚色賞)の両方ができたのが1940年。それ以降で、どちらかにノミネートもされずに作品賞を受賞した作品はわずかに4本。
1948『ハムレット』
1953『地上最大のショウ』
1965『サウンド・オブ・ミュージック』
1997『タイタニック』

しかも、『ハムレット』の年は脚本賞と脚色賞の分類をせずにひとつの賞にまとめたため、オリジナル脚本の『山河遥かなり』がノミネートされたことを考えると、分けられなかったら『ハムレット』は脚色賞に入っていた、と考えることも充分であるため、

実質、73年間でわずか3度しかない。
これはとんでもない事態。


④アカデミー賞にも夜は明けるのか……

では、『それでも夜は明ける』はどうだろうか。
ゴールデングローブ賞を受賞し、製作者組合賞もライバルと仲良く獲得。
前哨戦圧勝し、ここまで安泰に来た。。。


……あれ?これってもしかして『ブロークバック・マウンテン』現象では。。。
ふと思い返してみると、強い強いと言われている人種差別がテーマの作品。何が作品賞を獲っただろうか。
『クラッシュ』は人種差別を扱ったが、それが総てではなくアメリカの問題を浮き彫りにした作品。
『シンドラーのリスト』と『紳士協定』はユダヤ人差別。
『ダンス・ウィズ・ウルヴス』は先住民族への意識。

結局、黒人差別という問題を描いたのは『ドライビングMissデイジー』『夜の大捜査線』のたった2本。
『カラーパープル』も『ヘルプ』も土壇場で無視されてきたわけですから油断はできませんね。


⑤SF映画初のアカデミー作品賞へ

過去のノミネート作品で、3D映画はアニメーションの『カールじいさんの空飛ぶ家』と『トイストーリー3』、そして『アバター』、『ヒューゴの不思議な発明』、『ライフ・オブ・パイ』。どれも善戦を繰り広げて有力候補視されていた作品であったが、作品賞は逃しました。
今回『ゼロ・グラビティ』が実写3D映画では4本目の候補入り。

そしてこの映画が背負うのは3D映画の受賞よりも大きなものが。
それが、SF映画としては史上初のアカデミー作品賞受賞だ。

『時計じかけのオレンジ』
『スターウォーズ』
『ET』
『インセプション』

広義の宇宙映画としては
『アポロ13』
『アバター』

と、SF映画は涙を飲み続けた作品賞受賞の悲願が叶うのかどうか。

ファンタジー映画は『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』が受賞を果たしているが、あれは文学映画と捉えてしまえば納得であったし、ファンタジーとSFはやはり似て非なるものである。



保守的に純国産アメリカ映画を押し進めるのであれば勝つのは『アメリカン・ハッスル』。というか、『それでも夜は明ける』でも『ゼロ・グラビティ』でもなければ、だ。

人種差別への問題提起を取るか、映画の未来を取るかの二択に迫られているのだ。

前哨戦は圧倒的に『それでも夜は明ける』。しかし、今回の製作者組合賞でその二強が同じ位置にいることが証明された。
となると、利は『ゼロ・グラビティ』に傾いている

脚本賞候補なしの作品賞受賞で、『タイタニック』『サウンド・オブ・ミュージック』という歴史的な名作と肩を並べたとしても納得のいく映画である以上、受賞最有力は『ゼロ・グラビティ』であろう。



★作品賞予想★
◎『ゼロ・グラビティ』
◯『アメリカン・ハッスル』
▲『それでも夜は明ける』
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
『ダラス・バイヤーズクラブ』
『キャプテン・フィリップス』
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』
『her 世界でひとつの彼女』
『あなたを抱きしめる日まで』




余談)そういえば、近年はアメリカ国内興収が1億ドルを上回るか下回るかが交互に来ているというジンクスもある。
ちなみに今年は下回る作品の番。
今のところ、全米興収が1億ドルを下回る見込みの作品賞候補作は、
『それでも夜は明ける』
『ネブラスカ』
『あなたを抱きしめる日まで』
『her 世界でひとつの彼女』
『ダラス・バイヤーズクラブ』

ほう……。







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