2013年鑑賞新作ベスト30!


年間ランキングの発表を行います。
2013年に鑑賞した新作が対象となりますので、中には映画祭上映や特集上映、2012年や2014年公開作が含まれることがあります。

基本的には、
・2013年に劇場で鑑賞した近5年以内制作の40分以上の作品(ただし近2年以内に日本初公開となっていること)
・2013年にDVD等で鑑賞した近2年以内に日本で劇場公開された作品と、対象年度にソフトが発売した日本劇場未公開作品。
を中心に評価しております。

それでは、30位から一気にカウントダウンして行きたいと思います。






第30位『世界にひとつのプレイブック』
(デヴィッド・O.ラッセル監督)

アカデミー賞も席巻した見事な演技アンサンブル。
それでいて徹底した娯楽映画としてのヴィジュアルを貫いて、とにかくテンションが上昇し続け、エンドクレジットに入った瞬間に涙があふれる。至高のアメリカ映画。



第29位『ILO ILO』
(アンソニー・ウォン監督)

フィルメックスで急遽鑑賞(配給が決まっていたからスルーする予定でした)だったため、まったく心の準備ができていなかった。
スクリーンに溢れるエドワード・ヤン的な映画の至福に後々酔いしれるかぎり。冷静でありながら温かみも兼ね備えたヒューマンドラマで、アンソニー・ウォンという作家の存在から今後目が離せない。



第28位『楽園からの旅人』
(エルマンノ・オルミ監督)

エルマンノ・オルミは前作『ポー川のひかり』がいまいちだったにもかかわらず、一切衰えを感じないその演出の確かな腕前は、ワンシチュエーションのこの作品だからこそ光り輝く。観終わったあとに不思議な感覚に囚われるあのラストシーンは、しばらく忘れることはできないだろう。



第27位『カノジョは嘘を愛しすぎてる』
(小泉徳宏監督)

毎年のように少女漫画映画を評価してしまうのは、僕個人がこういう漫画ばかり読んで育ったから。
期待を裏切らず、期待を大きく上回ろうともしない、安定した物語にこそ魅力がある。こういう映画が面白いからこそ、この映画を評価する普段映画を観ない若い人たちに映画にハマってほしいと、心から思うわけで。



第26位『ラスト・スタンド』
(キム・ジウン監督)

アクション映画がそれほど得意ではない僕でも、この映画を認めないわけにはいきません。
韓国が生んだ娯楽映画の名手キム・ジウンの、ハリウッドデビュー作は堂々たるアメリカ娯楽映画を貫いていてとにかく楽しい。完璧なまでにしてやられた大傑作は、シュワルツェネッガーの作品としては『ターミネーター』以来かもしれません。



第25位『舟を編む』
(石井裕也監督)

極めて、極めて優秀な日本映画の形がここにあって、それを貫いたが為にあまりにも地味な映画になってしまった印象も否めないのだが、紛れもなく秀作である。
地味な映画(褒め言葉)になったのは、何よりも内容がとにかく映画的ではないからである。辞書を作る人を追う映画なんて、退屈なイメージしか抱けない。しかし、そのイメージを払拭するのは三浦しをんの作品のセンスと、間違いなく脚本の巧さであろう。


第24位『クラウドアトラス』
(トム・ティクヴァ,アンディ&ラナ・ウォシャウスキー監督)

今年もっとも、評価する上で難航したのはこの作品である。未だに完璧に掌握できていないこの映画を、どう評価するか。それは僕のこれまでの映画を観てきた人生の中で決まっていて、「わかる」「わからない」は判断基準ではないということであって、あくまでも映画の完成度と「おもしろさ」に付随するわけで。
ややこしいことを全て置いておいても、この映画は間違いなく傑作である。
ウォシャウスキーは兄弟だろうと姉弟だろうと、映画の革命児であることは揺るがないのだ。


第23位『凶悪』
(白石和彌監督)

冒頭から若干Vシネのような画面の粗っぽさに驚きつつも、そこから急激に進む物語に引込まれてしまうことは、映画好きというよりも、刑法学生だったから仕方ないのかもしれない。
正直、終盤の裁判の場面はもう少しって気はしたが、一度観ただけでは咀嚼しきれないほど重厚なテーマ性と、登場人物の強いキャラクター性に持っていかれる。
白石監督の前作『ロスト・パラダイス・イン・トーキョー』よ、頼むからソフト化してくれ。


第22位『ルールを曲げろ』
(ベーナム・ベーザディ監督)

東京国際映画祭のコンペティション部門で一番期待をかけていたイラン映画。期待に応える見事な出来映えに感服です。
冒頭の超長回しは相米慎二の『雪の断章』を思い出しつつも、そこから始まる見事な会話劇には、近年急速な進化を遂げているイラン映画界の作風に則した緊張感と、何とも言い難い空虚さを兼ね備えている。とくに、ファルハディの『彼女が消えた浜辺』がイランの映画界に与えた影響が出ているのではないだろうか、と考える。



第21位『スーサイドショップ』
(パトリス・ルコント監督)

ついに、ルコントがアニメを撮っちゃった!と、制作発表されたときにはひっくり返ったものです。最近のしっとり恋愛もののルコントではなく、初期のブラックコメディの頃のルコント作品を思い出させてくれる、何とも皮肉なギャグの連発に、何だか楽しい気持ちになってしまいました。
劇場では3D公開もしていたんですが、あえて2Dで観たことは失敗ではなかったと、信じたい、、、機会があれば3Dでもう一度観たいですな。



第20位『終わりゆく一日』
(トーマス・イムバッハ監督)

今年観た長編ドキュメンタリー映画の中でもっとも気に入ったのは、この実験的ドキュメンタリー映画。
ひとつの部屋から見える景色を定点固定で映し続け、留守電のメッセージを流し続ける。一見すると退屈そうにも感じられるこの作品には、思いがけないワンダーがたくさん潜んでいて、それが自分の部屋の窓から見えないだろうかという、淡い期待を抱いてしまうのも仕方あるまい。
トーマス・イムバッハという作家の作品を、もっと日本で観ることができれば尚良い。


第19位『風立ちぬ』
(宮崎駿監督)

今年の日本興業収入ナンバーワンを記録したジブリアニメはここにランクイン。
もちろん、今年観た映画の中で、最も泣いた作品を訊ねられればおそらくこれかもしれません。後半はほとんど泣き崩れていましたので。
宮崎駿監督の引退宣言(5年ぶり4度目)で話題にもなった本作は、従来のジブリ映画とはまたひと味違った作品に仕上がり、ジブリのアニメ映画は年を追うごとに進化していくことがわかる。それだけに、宮崎監督の引退は惜しいとしか言いようがない。


第18位『メン・アット・ランチ』
(ショーン・オ・クリーン監督)

こちらは毎年恒例のEUフィルムデーズで上映されたアイルランドのドキュメンタリー短編。
建設中のエンパイアステートビルの工事現場で昼食を摂る男たちを写した、世界一有名な写真にまつわる人々のドラマを追った1時間にも満たない作品の中に、アメリカの発展の歴史が詰まっていてかなり濃密。ドキュメンタリー映画として、ここまで気持ちよく観られる作品も他にないのではないだろうか。観終わってからの清々しい気分は、まさに映画を観たときの至福のひとときである。



第17位『横道世之介』
(沖田修一監督)

今年最も、初見時から今日のまとめまでの間に評価が伸び続けたのはこの作品。
大学時代に後悔は付きものです。そのすべてを補ってくれるような、2時間40分にも及ぶ青春ドラマの大作を前にして、僕は初見時には「良い映画」の印象しか抱けなかったことが何よりも後悔。
時を重ねるにつれ、この映画の良さ、というよりも大学時代の思い出が全面に記憶の中に押し寄せて来て……ああ、うまく言えない。とにかく、これと『建築学概論』は危険です。とっても危険です。


第16位『ザ・ダブル/分身』
(リチャード・アヨエイド監督)

東京国際映画祭で鑑賞したのはイギリスの若手監督リチャード・アヨエイドが発表した異色SFサスペンス。
これって、今年日本初公開を遂げたベルトルッチの『分身』と同一原作なので、リメイクという扱いでもいいのでしょうか? でも内容はかなり大胆な脚色を施していて、もはや完全にミア・ワシコウスカを観るためだけの映画になっている。
そしてアヨエイド作品ファンの心をくすぐりまくるためだけにある作品とも言える。
早く日本公開してくださいな、まったく。もっかい観たいじゃないか。


第15位『私のオオカミ少年』
(チョ・ソンヒ監督)

今年のサプライズのひとつでもある、韓国の少女漫画的映画。
昨年の韓国国内動員数で上位に入るだけはあって、恋愛映画としてもファンタジー映画としてかなりの満足感を得た。オオカミに育てられた少年ソン・ジュンギを、飼いならすパク・ボヨンの姿にとにかくドキドキが止まらなくなります。これも危険な映画です。
そして、この泣かせようとする構成の巧さ。あのラストシーン(完全に『ファンタスティックMr.FOX』を想起)に、もう絶賛するしかできなくなりました。



第14位『あなたはまだ何も見ていない』
(アラン・レネ監督)

こちらは日本未公開ですが、2月にアンスティチュフランセで上映されたので観に行きました。アラン・レネの映画が観れるなら、どんな手を使っても観ます。
アゼマをはじめとして、アマルリックとかアラン・レネ作品常連の役者たちが自分たちの役で出てくるわけで、極めて幻想的なタッチで久々の難解作なのではないでしょうか。
レネ作品ファンは絶対にハマる。なので僕はものすごく好き。



第13位『真夏の方程式』
(西谷弘監督)

テレビ映画だからって侮るなかれ。フジテレビには西谷弘という作家がいるんだと、世に知らしめたテレビドラマ映画の大傑作。
想像以上のスケール感と、キャストのアンサンブルはもとより、徹底した作家性を感じさせる秀逸な日本映画としての位置づけをしても何ら間違いはない。あらゆる映画へのオマージュを感じさせる点も非常に好印象。


第12位『あるいは佐々木ユキ』
(福間健二監督)

1月に鑑賞して、最も長く上位に留まり続けた本作は、最終的にはこの位置に落ち着く。
日本のインディーズ映画は、これまであまり評価してこなかったが、こればかりは別格である。
全体を覆い尽くす詩的リズムと、ヒロインが放つ空気感が、映画の一コマ一コマを埋め尽くしていて、言葉ひとつ動作ひとつに虜になってしまう。


第11位『あの頃、君を追いかけた』
(ギデンズ・コー監督)

数年前の映画祭で見逃して以来、待望の日本公開。期待した通りの出来映えに心をなで下ろすとともに、やはりこういう映画を観ると学生の頃を思い出してしまう。
今年は日本の『横道世之介』、韓国の『建築学概論』といい本作といい、良質な「青春懐古(後悔)映画」が多数あったが、その中でもずば抜けているのが本作。
ヒロインの選び方、そして台湾の時代の流れを反映させた物語。原作者自らが映画化したから、形にブレが一寸たりとも生じていないのも好感。大好き。




さて、ここからはベスト10!豊作だった今年、混戦の中上位に食い込んだ傑作だけが並びます!



第10位『ザ・マスター』
(ポール・トーマス・アンダーソン監督)

初見時には映画人生の中で初めて、映画の衝撃に耐えられなくなって途中で退出するという事態。そのあとに胃潰瘍の初期症状にまでなりましたが、回復した後再見。
今までのPTA作品の中でも3本の指に入るほどの傑作。製作中は何時間の作品になるのやらと期待しておりましたが、実際には2時間少々の比較的観易い作品。もっとも、70ミリフィルムでの撮影のコストの問題でしょうか。
画作り、美術、そしてキャストのアンサンブル。すべてがパーフェクトな出来映えで、むしろ評価したくないぐらい完璧で悔しい。



第9位『馬々と人間たち』
(ベネディクト・エルリングソン監督)

こちらは東京国際映画祭で鑑賞。当初は鑑賞予定に入っていなかったのですが、チケットが盛大に空いていたようで、前日辺りに急遽鑑賞することに。
馬と人間、アイスランドの国土を活かした作品作りに感銘を受けるとともに、何よりもその生命のドラマに号泣。ときにユーモラスでありながら、突然訪れる自然の驚異と、それを捕えるカメラのセンスにしびれる。ずっとこういう映画が観たかった。
年明けに北欧映画祭での上映が決まっています。このまま劇場公開を!



第8位『シュガーラッシュ』
(リッチ・ムーア監督)

テレビゲームをやったことがないので、当初はスルー予定でしたが、評判が良かったために観ることに。もちろん、実際のゲームキャラが登場していてもさっぱりわかりませんでしたが、内容のシンプルかつ目新しさに心を奪われる。
もっとも、日本語吹替え版のみの上映というのは正直好きではないが、『トイストーリー』以外で初めてのアニメの吹替版鑑賞は、ヒロインのヴァネロペの声が可愛らしかったので正解でした。




第7位『かぐや姫の物語』
(高畑勲監督)

今年は例年以上にアニメーションの当たり年ではないでしょうか。ジブリが2本来たのも一因ではありますが、今年の錚々たるアニメーションたちの中で、問答無用にトップに来るのはこの作品。
ほぼ「竹取物語」そのままでありながら、独自の解釈を加えたストーリーテリング。そして何よりも高畑作品独特の無駄を排除した絵の構成。泣けます。笑えます。これこそ映画です。これこそが、日本映画です。


第6位『偽りなき者』
(トマス・ヴィンターベア監督)

ドグマ95の残党たちが近年急激に躍進。それはスザンネ・ビアだけじゃない。このトマス・ヴィンターベアの作品を前にしたら、ドグマ95が成し得なかった真のデンマーク映画の姿を観ることができよう。
幼女への猥褻行為が疑われる男の転落の物語は、現実に起こりうる恐怖と、映画らしい複雑な人間模様が奇跡的なシンクロを起こして完成している。想像を遥かに上回る脚本力。そして、マッツ・ミケルセンの演技の静かで、どこかしら哀しみに満ちている表情。類希なる傑作。


第5位『ホーリーモーターズ』
(レオス・カラックス監督)

今年を代表する映画、いや21世紀のアート映画界を代表する映画だ。カラックスがスクリーンに帰ってきたことだけでただただ幸せなのに、その期待を上回る映画への愛の数々。冒頭の『群衆』に始まり、『顔のない眼』や『マックス・モン・アムール』と、好きな映画をここまで拾い上げられてしまっては、この映画の魔力に取り憑かれずにはいられない。
映画が好きだというならば、この映画を心から愛するか、この映画以上のものを撮りたいと心から欲するに違いない。



第4位『トゥ・ザ・ワンダー』
(テレンス・マリック監督)

評判はぼろぼろでも、好きなんだから仕方がないです。テレンス・マリックの映画が、こんな2年間のスパンで観れるなんてことが実現するなんて。
エマニュエル・ルベツキのカメラ、モンサンミッシェルの光景。そしてアメリカの大地。
映画に決まった形なんてなくて、人を魅了する力さえそこにあればそれでいいのである。
今後もマリックの作品の公開が控えているようだが、どれも必見であることは疑う余地もない。



第3位『ハッシュパピー バスタブ島の少女』
(ベン・ザイトリン監督)

今年もっとも期待値を超越していったのは紛れもなくこの映画。
アメリカのインディーズ映画はニューヨークだけではなかった。ベン・ザイトリンという天才が隠れていて、それを発掘したサンダンス映画祭とアカデミー賞に心から感謝したい。
演技経験のない新人キャストを配し、ハリケーンに襲われた水辺の町を舞台にしたある種の小さな革命の物語だ。オーロックスの造形と、親子の物語にひとしきり心が和んだ瞬間に訪れる、
最高級のタイトルクレジット。
しばらく席から立てなかったことは言うまでもない。



第2位『孤独な天使たち』
(ベルナルド・ベルトルッチ監督)

本当は、1位にしてもいいぐらいかもしれません。
ベルナルド・ベルトルッチという監督の存在は、イタリア映画界のみならず世界的に見てもそろそろ頂点に極まるのではないだろうか。発表する作品が軒並み彼のキャリアのベストを更新するかそれに及ぶぐらいの完成度を誇る彼は、まったく衰える気配も無い。
少年と、離れ離れになっていた姉とのひと時の生活。もう、後半涙が止まらない。思い出しても涙が溢れ出てくるほどに、声を大にして宣言できることは、この映画がとてつもなく好きだということ。
デヴィッド・ボウイの曲は、今年もっとも聴いた曲です。



第1位『ゼロ・グラビティ』
(アルフォンソ・キュアロン監督)

今年を代表する映画は、誰が何と言おうとこの映画以外に有り得ない。
「完璧である」「すばらしい」「大傑作だ」などというくだらない御託を並べる必要性もなく、「今世界に存在している、最も新しい映画は何か?」と訊かれたら、この映画のタイトルを言えば良い。
映画を面白くしようとしてあらゆる映画が試みる、無駄な肉付け等一切ない。そこにはただ「無」の空間があるだけで、その「無」の中で一個の無力な命が暴れ回るだけの映画だ。どうしてこんなに心打たれるのであろうか。
ラスト5秒、ただそれだけを観れば良い。自分が地球に生きていることを、初めて実感することができる。



というわけで。
以上が豊作だった今年2013年のベスト30です。

このあとは、毎年(2000年から)作り続けている自己満足の私的アカデミー賞各賞を発表しちゃいますのです。はい。



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